こびらオリーブ園・天草の海風に吹かれて
吉岡英二さんは2児のパパであり、体を動かすことが好き。
バドミントンなど、運動はなんでも楽しみます。
でも、一番ハマっているのはやはりオリーブのお世話だそう。
オリーブは地中海沿岸が原産地の植物で、モクセイ科のオリーブ属です。
植物には水はけと水持ちの良さという相矛盾した土壌が大事。
吉岡さんは天草のオリーブ畑をPH6.5~7くらいの土に畑を誘導します。
日が陰るので茂りすぎないよう剪定、隔年結果を防ぐ為に摘果もします。
無農薬なので病害虫の駆除は見回りが欠かせません。
それだけでも大変な手間です。
オリーブアナアキムシ、ハマキムシ、コウモリガ、スズメガ、カメムシなど。
見つけたら自分でとり、傷んだ幹は処置します。
オリーブは非耐寒性なので寒さに弱い植物ですが、収穫前は今度は乾燥しすぎが敵。
無農薬、無施肥にこだわれば手間がかかります。
開墾も楽しい、と吉岡さんは言います。
畑にするため、邪魔がられている竹藪を奇麗にすると気持ちいし、皆に喜ばれる。
開墾するのは勿論人がいいからだけじゃなく、オリーブ農家としての野心からでもあります。
生産量を増やし、販売チャンネルを増やしたい。
長年の努力で豊かなオリーブを実らせるようになってきつつある今だからこそ、将来へさらに夢をつなぎたい思いなのですね。
吉岡さんは元々農業には縁がなく、菊池市の旭志で金属加工の会社に勤めていたのです。
しかし、不景気で残業が多く、奥さんからも転職した方がいいとアドバイスを受けていました。
その奥さんのお父さんが天草で建設業をしており、かねて吉岡さんに後を継いでほしい、と言われていたのですが、吉岡さんとしてはあまり食指が動きませんでした。
それがある日、お父さんが天草にオリーブ園も持っていることを知るのです。
平成22年に耕作放棄地を解消し、オリーブの栽培を始めていたのです。
しかし、人では足りておらず、栽培はうまくいっていませんでした。
その時までに、吉岡さんには無農薬、無施肥の農業にはちょっとした思いがあったのだそうです。
とある本と映画がきっかけでした。
リンゴを完全無農薬無施肥で育てる農園経営に成功した木村秋則さんという方をテーマにした「奇跡のリンゴ」という本と、それを映画化した作品に感動していた吉岡さん。
木村さんの主張する化学成分の体内摂取を減らし、地球環境にも優しい農業。
そのコンセプトの魅力が吉岡さんの中で大きく膨らんでいたのです。
次に馬場さんという、その筋では知られた自然栽培農家さんと、アースデーマーケットで知り合いとなっていた吉岡さん。馬場さんに対しても木村さんに対するのと同じ尊敬と憧れを抱いていたのでした。その馬場さんが吉岡さんのお父さんのオリーブ園のお隣に畑を持っておられたのです。
それを知って、天草に運命的な思いを持った吉岡さん。
吉岡さんの心は大きく動きました。
何かが胸の中ではじけてしまったのです。
「やりたい、やれるのか、いや!
どぎゃんかなっど!せなんばい!」
激しい葛藤の末、吉岡さんは会社を辞め、天草に引っ越し、義理のお父さんの会社を手伝いながらオリーブ園に手を付けました。
荒れ放題の畑の草刈りをし、開墾をし、枝を払っていきました。
むろん、事はそう甘くは運びません。
オリーブが豊かに実をつけるには時間も手間もかかります。
頻繁にイノシシに畑を荒らされたり、台風で木を300本も倒された時もありました。
悪戦苦闘し、先が見えず心が折れそうになることも。
これまでか、と思った時「オリーブの島づくり」を進めていた天草のオリーブ振興協議会から指導員にと声がかかります。
天草の自治体もまた、天草でのオリーブ振興に興味を持っていたのです。
吉岡さんは天草オリーブ振興協議会から雇われる形でオリーブ栽培に没頭できる環境を手に入れました。しかし、それもまた暗転、やがて天草の自治体の方針返還で市役所のオリーブ振興係がなくなり、1農作物という立ち位置に代わり、オリーブ指導員も不要とされてしまいました。
これまでか!
脱サラし、天草に居を移してまで挑んだチャレンジでしたが、先は一向に見えません。
すると某企業から突然スカウトされました。
天草での吉岡さんの頑張りを伝え聞いた農業生産法人からでした。
吉岡さんは希望をつなげました。
オリーブ振興を続けていいというのです。
こぶしを強く握りなおした吉岡さん。
オリーブをその会社で軌道に乗せられる!と。
しかし、熊本市内に転勤となった吉岡さんは、仕事の手順としていったんオリーブから距離を取らざるを得ず、熊本市内の実家に戻り、またサラリーマンとなったのです。
何か釈然としない日々を送ることになった吉岡さん。
ところが波乱万丈、その会社が倒産してしまったのです。
「これは天命ばい」
事ここに至り、つに後ろ盾もなく独立の決意を固める吉岡さん。
「これまでは甘かった、すべてを賭けるしかなか、、、、」
全てに見放されたからこそ、裸一貫、すべてを賭ける決心がついたのです。
天草の畑に賭ける決意が新たとなり、熱情がふつふつと再燃、義理のお父さんから畑も任され、オリーブ一本で生計を立てる道に踏み出しました。
吉岡さんは思い切って借金をし、搾油の加工場を作りました。
ついでに事務所、作業場、倉庫も確保、軽トラやお茶の機械も揃えました。
こうして一切を捨ててオリーブに向き合うことにした吉岡さん。
そして今、オリーブは吉岡さんの想いに応えてくれ始めました。
数年前からやっと生育のいい実がなり始めたのです。
天草の風土のお陰かもしれません。
南面した日当たりのいい斜面に、海を越えた甘い風が吹き抜け、日本ではまれにみる地中海的な気候がオリーブたちを慈しむように育ててくれるようになったのです。
収穫量もまだまだ不十分ではありますが、着実に増えてきています。
新しく植樹したオリーブの木たちも実をつけてくれ始めています。
そして収穫され、搾油されたオイルのなんとふくよかな香り!
天草の自然に抱かれた、陽だまりの畑のオリーブの味!
毎秋、絶品のオリーブオイルが誕生してきます。
オイルが獲れるのは秋のみ、自然災害、イノシシの害や市場の動向など、オリーブ園の経営に対し、今でも吉岡さんの心には不安のタネや心配が尽きません。
しかし、希望もまた限りなくこみあげてくるのです。
無農薬無施肥の、安心安全なオリーブを心行くまで楽しんで頂きたい。
そしてオリーブをもっと知って頂きたい、と吉岡さん。
オリーブは果物、旬がある。収穫時期は限られ、賞味にも旬がある。
味は摘みたてが一番美味しい。11月から半年が旬。そんなことも頭に入れてオリーブを味わって貰えれば、さらにオリーブを好きになって貰えるはず。
そんな夢に向かい、吉岡さんはエキストラバージンオイルの生産は勿論、オリーブの美容液やオリーブの葉を使ったお茶の開発、熊本市内に近い内陸部でのオリーブ栽培試験など、次々にチャレンジを繰り返します。
ただし、どこまでもこだわるのは無農薬、無施肥であるということ。
値段は高くつくけど、本物の味わい、香りはそれでなくては皆さんに伝わらない。
それだけは曲げられない、という吉岡さんの想い。
そんな思いが、こびらオリーブ園の製品には込められているのです。
0コメント